Life is Beautiful

主に進化生物学の理論のブログです。不定期更新予定。

進化遺伝学(Maynard Smith著、原田祐子・巌佐庸 訳)

進化遺伝学
理論生態学者ならば一度はお世話になったことがあるであろう、ESSなる概念の「創始者」、Maynard Smithの古典的名著.

 私はあまり本筋通りの王道学修を行って来ていない上、出身が理学部の(4年生から)数学系であり集団遺伝学をきちんと学んだ経験がなく、大学院に入ってから不自由を感ずることが多くなった. そのため、今更感はあれど「積ん読」状態であったこの本を一日一章ずつよむことにした.

 序章には色々と興味深いコメントや、彼なりのアイデアが散見されて面白かった.
たとえば、「トルーマン氏の言葉をもじれば、数学がひどく嫌いならば進化生物学には近づかないほうがよい.」
という、手痛い辞.
余計なお世話や!と思ったが、真摯に受け止めて肝に銘ずることとした.

第1章「自然淘汰による進化」
 ダーウィニズムとラマルキズム、そしてネオダーウィニズムについての歴史的おさらいも兼ねた章であった. この章での印象は、各セクションで扱った内容をきちんと箇条書きでまとめてある所への好感.
意外に、学術論文以外ではこういったサマリーやアブストラクトを見ることがない.
 内容では、次の記述「彼がラマルク説を認めないといったのは(中略)、生物は本来より高度でより複雑な形態に進化する傾向があるというラマルクの信念についてだった. 複雑なもののの進化をこういったやり方で説明するのは、宇宙が膨張しているという事実を説明するのに、宇宙には本来大きくなる傾向があるからだと言うようなものだということを、ダーウィンは正しく見抜いていた.」は示唆に富んでいると思う. アタリマエの事なのだが、我々進化生態学者も時折、この「トートロジー」に陥っている事があるという可能性は念頭に置いておくべきだろう. 何を導きたいのか、そのためにどういう実験を組むのか、何を検出したいのか、こういう試行錯誤は、時として「Aと仮定すればAである」という、無主張な主張へと洗練されてしまうことがある.

 なお「獲得形質が遺伝するという」アイデアは後にワイスマンによって打ち砕かれる事になるのだが、ラマルクの考えた「適応」性は現代生物学の大きな柱になっていることを忘れてならない.

第2章「集団のモデル」 
 続いてこれはやはり古典的な増殖方程式の導出に始まるが、途中でこれを、興味ある塩基配列の増殖方程式へと拡張させている点はやはり秀逸である.特に、

という節は、それぞれ数理的に考察されているのだが、とてもよい復習になった.

 明日は、第3章「二倍体集団における進化」を読んでみようと思う.