[書評]
進化遺伝学
第3章 二倍体集団における進化
有性生殖する集団の、特に充分個体数の大きい場合の進化を考える. ここでの目標は主に、定性的に(しかし量的遺伝学的に)遺伝子の広がり方を知る事にある.
初めに、ハーディ・ワインベルグ平衡の導出、ワーランド効果の概説、適応度の定義を著者は行っている. これらは、集団遺伝学を学ぶ上で最も根本的な概念や現象でありここでは詳細は略すが、さすがといった所は、このハーディ・ワインベルグ平衡を導出する際に置いていた仮定をきちんと明確化している点だ. 少なくとも私は、この本を読む前までは蔑ろにしていた部分ではあったように思う. そう、集団遺伝学で顕れる全ての数式は、数理モデルなのだから.
遺伝子Aが有利、A以外の遺伝子aが不利であり、注目するのは1locus 2alleles. 典型的なdiploidモデルだ. 世代の重なりが無い場合のモデルだ. Aを有利なアリル、aを不利なアリルとする. これは相対的な意味である. また、n世代目でのそれぞれの頻度を
A:
a:
と其々おくと、diploidなので頻度はそれぞれ
AA:
Aa:
aa:
となる. いま、Aが有利であったので、相対適応度を
AA:
Aa:
aa:
とする. よって、相対比率は
AA:
Aa:
aa:
となる. これより、次世代でのAの頻度を求めると
.
原理的には、この漸化式を解けば任意の世代での頻度を得られる事になるが、それは出来ない. そこで、が小さいという仮定を課すと、近似的に次が得られる:
これから、淘汰の上での有利さを表すパラメタをマルサス増殖率とする指数関数的な増殖を呈する.
このように、有利な遺伝子が顕著に拡がっていく例は、有名なオオシモフリエダシャクの羽の色、殺虫剤耐性遺伝子を持つ害虫の拡がり、などに見られる.
簡単なモデルから遺伝子の拡がり方をきちんと説明できる点は集団遺伝学の大きな強みだろう. 興味深く読ませてもらった.
明日は、第4章「自然集団における変異性」へ入ろう.