Life is Beautiful

主に進化生物学の理論のブログです。不定期更新予定。

現在読んでいる確率論の書籍

前回、「数理生物学」のオススメ本をイッキに紹介するということをしてしまいました。
本来、ブクログというサービスを用いて、現在読んでいる本を公表するはずなのですが、はてなブログのほうが幾分もそれが楽なので、こちらで綴らせてもらいます。また、勝手なスコアもつけさせてもらっています。ただし、前回のブログとは基準が異なります。数学における「難易度」は、「地獄度」と等価であることがあります。

Real and Complex Analysis(表紙は赤と緑2種類があります)

Real and Complex Analysis(表紙は赤と緑2種類があります)

難易度:★★☆☆
可読性:★★★★
推奨度:★★★☆
必要となる数学の素養:集合と位相、線形代数微分積分学

Walter Rudinによる、測度論とその応用に関する入門書です。僕が学部生の頃、この本を読もうとしていたら、解析学の先生に
「そんな特異的な測度の構成をする本は…(苦笑)」
と言われたのが記憶によく残っています。

この本では、まずはσ代数を定義し、その上での「関数」として測度を構成、完備化定理を認め、
さらに区間の長さから最終的に外測度と内測度の(一意的)一致 からルベーグ測度を作ります。
高次元の場合は、長方形による近似操作という自然な作法をとります。

ただし、測度が負の場合や、複素数の場合も取り扱う上、測度の微分操作というものも後半から定義します。
そのキモチは、たぶん、変数変換操作の公理的な定式化があるのだとは思いますが、多くの人にとっては真新しいものだと思います。
関数解析学において頻繁に用いられているテクニック(操作)などについても紹介がありますので、とても重たい一冊と言えます。

なお、英語表現はとっても流暢で読みやすい!僕としては、測度論の日本語の教科書よりも幾分も読みやすいと感じました。
1章を齧り読みするだけでも、「測度論」の勉強としてはとてもよいと思います。ラドン・ニコディムの定理をもっと初めに導入して欲しかった、とは感じますが。
ちなみに、演習問題が豊富なのに、「この定理の証明は演習問題としておく」という記述は今のところ見かけません。素晴らしい。。


Brownian Motion and Stochastic Calculus (Graduate Texts in Mathematics)

Brownian Motion and Stochastic Calculus (Graduate Texts in Mathematics)

難易度:★★★★
可読性:★★☆☆
推奨度:????
必要となる数学の素養:測度論学習に必要な数学すべて

確率過程の荘重な本です。測度論は完全既知としていますので、読めない読者も多いかと思います。間違っても、測度論をしらないうちに読もうとはしないように。
タイトルどおり、ブラウン運動のモデル化と解析とを主とした目的とした本だと思います。
著者の国籍はちょっと不明ですが、英語表現にすこし癖があるかな?
最終的には確率積分ブラウン運動に関するPDE、確率微分方程式まで勉強できる、ボリューム満点な本です。ファイナンスを志す方むけかも知れません(あるいは経済学生)。

ベイジアンネットワーク入門―確率的知識情報処理の基礎

ベイジアンネットワーク入門―確率的知識情報処理の基礎

確率過程の基礎

確率過程の基礎

ともに
難易度:★☆☆☆
可読性:★★★☆
推奨度:★★☆☆
必要となる数学の素養:高校までの数学

少しは気休めの本も読みたい、ということで眺めているマルコフ連鎖の本です。これは測度論的ではないので、高校生でも読めるはず。
だからといってしょーもないわけでも全くなく、確率過程を平均値で評価し、定常状態を解析するためには適した本だと思います。
数学バックの自分としては、可もなく不可もなく、といった評価です。

他にも日本語の場合、

難易度:★☆☆☆
可読性:★★★★
推奨度:★★★☆
必要となる数学の素養:高校までの数学

が、丁寧でとても読みやすいとおもいます。測度論の構成が補遺にあるので、難なく読めます。トピック(BOX)や例、演習問題も豊富で、問題を解きながら身につけることができる、
よい入門書だと思います。著者自身が測度論には苦労させられたとの話もあり、なんとなく親近感が湧きます。
数理モデルとしてブラウン運動や電気回路を題材に応用方法を紹介してくれます。
なお、「参考文献」がとても豊富で助かります。測度論につまったら、Rudinに戻るとよいでしょう。


Probability: Theory and Examples (Cambridge Series in Statistical and Probabilistic Mathematics)

Probability: Theory and Examples (Cambridge Series in Statistical and Probabilistic Mathematics)

難易度:★★★☆
可読性:★★★★
推奨度:★★★☆
必要となる数学の素養:線形代数微分積分、集合と位相。測度論があると尚よい

定常状態だけではなく確率過程を理解したい方むけです。まだ少ししか読んでいないのですが、とても読みやすいうえにボリュームもある、完成度の高い一冊だと思います。
測度論はなかば認める形で議論が進みます。この本で測度論を学びながら確率論を修めるのは、すこし厳しいかも。

なお余談ですが、Durrettは生物学的な本も書いています。

Probability Models for DNA Sequence Evolution (Probability and Its Applications)

Probability Models for DNA Sequence Evolution (Probability and Its Applications)

高校生までの数学で読める、分子進化の本です。これはまだ読んでいませんので、評価の範囲外とさせて頂きます。よければどうぞ。
pdfは
http://www.uni-due.de/~hm0110/Durrett2008
で取得可能です。あいかわらず、とても読みやすい英語で嬉しい。