Frank (1998) Foundations of social evolution において、包括適応度理論の展開で繰り返し強調されている指摘がある。それは、
血縁度は、共通祖先の存在にだけ由来するわけではない
というものである。Frankは、その具体例として、interspecific mutualism(異種間相利共生関係)において、幇助or利他行動が共進化したのは、その行動の「相関性」によるものだという論拠である。
しかし、赤本の7章subsubsection "other frameworks"において、それがバッサリ否定されている(もとの引用はHamilton, 2001):
"NOT TERRIBLILY SUCCESSFUL"
つまり、そのフレームワークは数学的にほとんど全く機能しないという意味だ。それは、そういう相関性は、weak selectionの仮定や形質値の差が充分小さいという仮定の下では、高次の項としてしか寄与せず、線形安定性(おおくの場合、収束安定性)には関係がないというものだ。
これは確かにそうで、相関係数の次元を見ればそれは解る。形質値の相関性は、偏微分のクロスタームに出てくる、つまり2次以上の項にしか登場し得ない(直観的には)。
ただ、形質の相関性がうまれるのは間違いないのでその点には注意。Roussetの主張はおそらく、そういった相関性は進化のドライバーにはならないだろう、というものである。
ちなみに、Frankは、形質値の差が大きい場合の理論展開も(実は)きちんと計算をしている。
いずれにせよ、FrankとRoussetとはお互いに異なる流儀に立っているようなので、両者を批判的に勉強したほうがよさそうである。