Taylor, P.D. (1990) Allele frequency change in a class-structured population, American Naturalist 135, 95-106
Fisherが(優生学への傾倒の帰結として)提唱した繁殖価という概念は、テキストで習うぶんにはとても簡単です。
- 当該の遺伝子は世代を渡って色々な年齢の個体に乗っているので、それらの適応度を(定常状態で)定義する必要がある。
- 年齢によって、将来の遺伝子プールへの貢献度は異なる。
- したがって、(年齢別の適応度)×(年齢別の重み)で和をとって、生涯の繁殖成功を記述してやる必要がある。
- その年齢別の重みを、繁殖価Reproductive Valueと呼ぶ。
ここで必ず断っておく必要があるだろうと思うのは、繁殖価は「自由に」*1選べるパラメータではないということです。繁殖価は、マルコフ連鎖(特に、レスリー行列や適応度行列)の最も大きい固有値に関する左固有ベクトルとして定義されるものです。
ここでは年齢を問題にしましたが、これはすべての「クラス構造」に拡張可能です。たとえば、アフリカで生まれた個体、アメリカで生まれた個体、日本で生まれた個体が遺伝子プールを共有している場合、繁殖価を定義する必要があります。
実際問題としては、コホート(生命表)から、各ステージにおける生存率や死亡率を推定することによって、定常状態を仮定して計算されます。
この定常状態という仮定はここでは外せません。たとえば進化的に安定な状態は(形質に注目している場合は)定常状態と言われます。また、感度分析を行うので、選択の弱さも仮定したいところでしょう(行列である適応度関数を微分するので、ハイヤーオーダーの項が、テンソルになってしまうので)。
その導出をエレガントに行っているのがこの論文ですが、論文の体裁自体がけっこう古いものですので、個人的にはFrankの黒本と一緒に読まれることをお勧めしたいです。134ppからです。
より発展的な議論や応用が、
- Ronce, O., Gandon, S., Rousset, F. (2000) Kin selection and natal dispersal in an age-structured population. Theor. Pop. Biol. 58: 143–159.
- Rousset (2004) Genetic Structure and Selection in Subdivided Populations.
- Rodrigues, A. M. M., and A. Gardner. (2012) Evolution of helping and harming in heterogeneous populations. Evolution 66, 2065-2079.
にありますが、これら3つの論文で路頭に迷ってからでも遅くありません(僕はそうでした)。なお、直感的な計算に関しては
- Sarah P. Otto & Troy Day (2007) A Biologist's Guide to Mathematical Modeling in Ecology and Evolution
http://press.princeton.edu/titles/8458.html
- An Illustrated Guide to Theoretical Ecology
http://www.amazon.co.jp/dp/0195085124
に詳しいです。ともに読みましたが、前者は辞書的、後者は輪読向きな感じがします。
あとは
- 瀧本岳さんによる「齢構造のある個体群」授業資料
http://www.lab2.toho-u.ac.jp/sci/bio/theoeco/wiki/index.php?2013%BF%F4%CD%FD%C0%B8%CA%AA%B3%D8
がわかりやすいです。