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Life is Beautiful

主に進化生物学の理論のブログです。不定期更新予定。

グループ淘汰と血縁淘汰の形式的な等価性?その2 : Dynamical Sufficiency

Traulsen (2010) Evolution. つづき:

なぜか前回途中から、丁寧語が崩れてしまっていました。数式を説明するときは丁寧語にしたほうが(教科書っぽくなく)講師のスタイルっぽくて好きなのですが、どうしたものか。とりあえず、丁寧語で進めます。ただし、脚注は丁寧語が落ちる可能性が高いと思います。

さて、著者は包括適応度理論と進化ゲーム理論との比較*1として、

  1. ダイナミクスの十分性

  2. 頻度依存性

  3. 弱い淘汰の定義と、その必要性

を挙げています。ひとつずつ見ていきましょう。

1. ダイナミクスの十分性

日本語で書くとわけが分からないのですが、一般にはDynamical (あるいはDynamic) Sufficiencyと呼ばれます(以下DS)。これは著者の説明が非常に明解で、要は力学系を特徴づけるような変数に関して、計算処理が閉じているかどうかということです。有名な事実として、Price方程式はDynamical sufficientではありません(Frank 1998)。

というのも、Price方程式にあらわれる共分散Cは

\begin{align*} \mathrm{C}[w,z]=\mathrm{E}[wz]-\mathrm{E}[w]\mathrm{E}[z] \end{align*} ですから、Cov=C*2の変化を知るためには、\( \mathrm{E} [wz] \)の変化を知る必要があります。\( \mathrm{E} [wz] \)の変化\( \Delta \mathrm{E} [wz] \)を知るためにPrice方程式へ代入すると(この使い方はほんとうに便利や!)、

\begin{align*} \mathrm{E}[w]\Delta \mathrm{E} [wz]=\mathrm{C}[wz,w] + \mathrm{E}[w\Delta wz] \end{align*}

となりますので、何世代にも渡って形質のダイナミクスを追跡するためには、高次のオーダーの情報がすべて(無限に)必要になるということです。これでは力学系の定める軌道を追跡できません。これが、DSを満たさない、ということです。*3

ただ、Defenseを2つほどさせて頂きます。

まず、Price方程式はDSを満たさないのですが、それは包括適応度理論がDSを満たさないということではありません。包括適応度理論というのは、もっと広い枠組みです。形質値と適応度の相関性どころか、因果性を追跡する枠組みです(それは進化ゲーム理論も同様)。実際はCovなどという「統計量」ではなく、数学的な「関数関係」として表現されます。その枠組は広く整備されています。もちろん、近似ですが。

そして、これは著者の主張にもあるのですがPrice方程式は局所的なステートメントです。そして、そのステートメントは、時刻を止めるたびごとに、 常に正しい 。Price方程式は常に正しいのです。ただ、ダイナミクスを追跡するためには毎回毎回Price方程式を適用せねばならないという弱点があるのですが、平衡点の性質を調べる上では、けっこう良い近似を与えるはずです(特に無限集団の場合)。

DSとは、繰り返しますが、計算処理が閉じているかどうか、という性質です。数値シミュレーションで、どんな値も、所与の値からタイムステップにしたがって計算されますよね?その所与の情報が毎度毎度に十分であるとき、DSであると言われます。普通ぼくらが直面する問題(微分方程式とか)は、DSです。

一方、レプリケータ方程式は:

\begin{align*} \dot{p_j }=p_j (w_j- \mathrm{E} [w]) \end{align*}

ここで\( p_j \)はタイプ\( j \)の頻度です。これは微分方程式ですので、あきらかにDSを満たしますね。

さてここで著者はレプリケータ方程式をPrice方程式から導出してみせているが、「だからと言って等価なわけではない」と結論づけています*4。しかしここにはやはりまだ納得いきません。やはり、レプリケータ方程式はPrice方程式にほかならないのです。

ともかく、著者はここで、進化のダイナミクス方程式(Price vs. Replicator)の選択は大きな問題であると警告をしています。一般的な数学的作法で記述したいのか?それを諦めて、固定確率などの重要な指標を計算するか?それらは目的次第で使い分けられるべきだろうということを述べてしめくくっています。そして次に、頻度依存性の問題に取り組むことになります。

しかし先述のとおり、やはりレプリケータ方程式というのは、Price方程式にほかならないのだと思います。それを少し記述してみましょう。

\( x_i \)を表現型値、\( n_i \)はその個体数、\( r_i \)を単位時間あたりの、\( n_i \)の増殖率としましょう(\( i=1,2,\cdots I\))。(\( r_i\)は、いろんな値に依存します;頻度依存選択)すると

\begin{align*} \frac{dn_i}{dt}=r_in_i \end{align*}

が、\( i\)番目のタイプのダイナミクスを記述します。ここで、個体数を頻度の式になおしましょう:

\begin{align*} p_i:=\frac{n_i}{\sum_j n_j}. \end{align*} さて、これによって、表現型値の平均

\begin{align*} \mathrm{E} [x]:=\sum_j p_j x_j \end{align*}

が定まります。まず、これを陽に\( t \)で全微分すると、掛け算の微分の公式より

\begin{align*} \frac{d\mathrm{E} [x]}{dt}= \sum_j \dot{x_j} p_j+\sum_j x_j \dot{p_j} \end{align*}

が成立します。変数の頭上のドットは、時間に関する偏微分を表します*5。あるいは、\( t \)について微分するときに、今度は\( p_i \)や\( x_i\)の時間依存性を考慮すると、チェイン・ルールによって、

\begin{align*} \frac{d\mathrm{E} [x]}{dt}=\sum_j \frac {\partial \mathrm{E} [x]} {\partial p_j} \frac{\partial p_j} {\partial t} + \sum_j \frac {\partial \mathrm{E} [x]} {\partial x_j} \frac{\partial x_j} {\partial t} \end{align*}

が得られます。\( \operatorname{E}\)の定義を思い出しておけば、おなじ表式が得られます。

ここで、\( \dot{p_i} \)の中身を見て行きましょう。\( p_i \)は頻度でしたから、

\begin{align*} {p_i}=\frac{n_i}{n_1+n_2+\cdots+n_I} \end{align*}

です。これを\( t \)について対数微分をとると

\begin{align*} \frac{\dot{p_i}}{p_i}=\frac{\dot{n_i}}{n_i}-\frac{\sum_j \dot{n_j}}{\sum_j n_j} \end{align*}

です。ただし\( \dot{n_j}=\frac{d n_j}{dt}\)です。\( \dot{n_i}=r_i n_i\)と\( n_j/\sum_i n_i = p_j \)を思い出すと、

\begin{align*} \frac{\dot{p_i}}{p_i}=r_i-\frac{\sum_j r_j n_j}{\sum_j n_j}=r_i-\sum_j r_j p_j \end{align*}

つまり

\begin{align*} \frac{\dot{p_i}}{p_i}=r_i-\mathrm{E}[r] \end{align*}

が得られます。これはレプリケータ方程式ですね。さてこれと、形質\( x \)の平均の定義より、

\begin{align*} \frac{d\mathrm{E} [x]}{dt}= \sum_j \dot{x_j} p_j+\sum_j x_j \dot{p_j}= \mathrm{E} [\dot{x}] +\sum_j x_j p_j (r_j-\mathrm{E} [r]) \end{align*}

で、第二項は共分散\( \mathrm{C}[r,x] \)にほかならないので、結局、

\begin{align*} \frac{d\mathrm{E} [x]}{dt}= \mathrm{C} [r,x] + \mathrm{E} [\dot{x}] \end{align*}

が得られます。これは明らかに、Price方程式において、平均適応度=1とスケールした場合の表式です。

以上の、レプリケータ方程式からPrice方程式への式変形はただの代入操作です。したがって、非常に密接に関わっていることがとてもよく判りました*6

*1:前回も繰り返し主張したが、この比較・対比の構造はちゃんちゃらオカシイと思います。包括適応度理論は進化ゲーム理論と排反ではないはずです。たとえば、異常な性比は、進化ゲーム理論を用いて包括適応度を計算しています。ただし、原典としてのHamiltonは、ESSではなく無敵の戦略(US; 任意の規模の突然変異の侵入に耐えられる戦略)を進化的安定性の規準としていますが。ちゃんと計算してはいませんが、ESSとUSはこの場合は一致するとは思います。多分ね。

*2:なぜか、Covは数式内で禁則になっているようなので、あまりみない表現だが共分散CovarianceはCと表記することにする。

*3:ただ、著者も断っているように、高次のオーダーの情報が、低次のオーダーの情報だけですべて記述できる場合、DSは満たされます。

*4:DSの有無という違いがある以上、性質はまったく異なるから、という理由で。。

*5:ここでは、\( x_i,p_i\)は、時間に「陽に」依存しないと仮定した。つまり、\( x_i=x_i(t),p_i=p_i(t)\)は時間に依存するものの、その関数を表現したときには、時間\( t \)の項は直接的には現れず、あくまでも他の依存関係にしたがって、間接的に\( t \)に依存するとした。たとえば。\( u=\cos{t}\)は時刻\( t \)に陽に依存するが、\( v=u-u^{2} \)は、\( u \)を通じて時間変化するものの、時刻\( t \)には陽には依存しない

*6:どんどん、この論文を読み進める主観的な価値(モチベーション)が失われてきています…。