Life is Beautiful

主に進化生物学の理論のブログです。不定期更新予定。

数式にセンスを感じるとき

数式が入った論文を読むときは、著者の「センス」をチェックします。

たとえば次の数式

\begin{align*} H:=\sum_{i} p_i\ log\frac{1}{p_i} \end{align*}

は、シャノンエントロピーの定義を与える…っぽいのですが、…気持ち悪い。次の数式はコサインやサイン、タンジェントの関係式っぽいのですが

\begin{align*} tan\theta=\frac{sin\theta}{cos\theta} \end{align*}

…気持ち悪い。これらは極端な例でしたが、次のような場合はどうでしょう。ある量\(W\)は、home環境でのサブコンポーネントと、away環境でのサブコンポーネントに分解できるとします(たとえば、homeでの勝ち点と、awayでの勝ち点とか):

\begin{align*} W_{total}=W_{home}+W_{away} \end{align*}

これも、けっこう気持ち悪い。

なにが気持ち悪さの原因か?

ずばり、「ことば」を「数式中」で「イタリック」にしているところです。数式*1は斜字体(イタリック)で表現するのは常識*2です。しかしlogやsinは、ただの関数「\(f\)」の具体化ではなく、「log」や「sin」で初めて一つの意味を持ちます。\(sin\)と書いた場合、\(s\)と\(i\)と\(n\)の積であると誤解を与えかねません。なので、logを\(\log\)として意味を持たせるためには、

\begin{align*} H:=\sum_{i} p_i\ \log{\frac{1}{p_i}} \end{align*}

と書きましょう。タンジェントも、

\begin{align*} \tan{\theta}=\frac{\sin{\theta}}{\cos{\theta}} \end{align*}

だとスッキリしますね。

最後の例はどちらかというとマイルドな例なのですが、total、away、home、いずれの一塊のシンボルは、いずれも代数的な意味を持たないので、

\begin{align*} W_{\mathrm{total}}=W_{\mathrm{home}}+W_{\mathrm{away}} \end{align*}

と書きましょう*3。ということで固定指数も、\(F_{ST}\)よりも

\begin{align*} F_{\mathrm{ST}} \end{align*}

にしましょう。こういった気遣いを見ると、僕はなんとなく、数式に対する書き手の姿勢(リテラシー、フィロソフィー、そして慣れ)を見てしまうのです。

*1:より精確には、「シンボルや数値を代入される可能性のあるローマアルファベットで表された代数的なシンボル」。なおギリシャ文字は、イタリックにする人・しない人がいるようだが、\( \Pi \)などはイタリックにすると気持ち悪いことこの上ない

*2:マナーではない。ルールとしての常識である

*3:ご丁寧に、LaTeXには、\(\sin\)などの初等関数の環境\sin{}が準備されている。したがって、sinを\(sin\)などと書くと、気持ち悪さが引き立つ(シンボルを並べると自動的に「掛け算」として処理され、文字の間が広がるので)