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Life is Beautiful

主に進化生物学の理論のブログです。不定期更新予定。

PolymorphとHeteromorphの違い

「多型」という表現を英語で書く時、表現には迷うことがとても多くありました。

Steven Frankは、移動分散の進化モデルを解析した"Dispersal polymorphisms in subdivided populations"という論文で、Polymorphという単語を、「無翅型と有翅型とが、単一のジェノタイプによってコントロールされている」という意味で用い、「無翅型と有翅型という多型を生産する割合」という形質が進化するとして、議論を進めました。そのモデルの中では、集団がESSによって単型(monomorph)化した状態を追跡しています(進化ゲーム理論の標準的な仮定)。つまり、polymorphicな個体たちによって集団がmonomorphismを呈する条件を求めたわけです。

しかし、進化ゲーム理論では、Polymorphicというのは別の文脈でも用いられます。それは、注目している形質の表現型が2つあり、異なる遺伝的な背景を持つ場合。すなわち、集団が「互いに異なるジェノタイプによって支配されている複数の表現型」によって専有されるというシチュエーションを考察する場合です。つまり、Polymorphic populationとは、異なる表現型を呈する遺伝子型Aと遺伝子型Bとが固定している集団のことなのです。

一方、Heteromorphという言葉もあります。Google Scholarで調べるとやたらアンモナイトに関する文献ばかりがヒットするは経緯が少し謎ではありますが、「異型」という訳語があてられます*1。このheteromorphという言葉は、たとえばHeterocarpy(異型果実)などに見られるように、単一のジェノタイプが複数の表現型を作り出すケースに多く見られます。なので、Frankが呼んだ所のPolymorphに対応する言葉だと考えられます。

以前、共同研究者(彼は植物学者)と議論をしていたとき、HeteromorphとPolymorphという言葉を僕が混用していたら、注意(?)を受けました。

「集団がheteromorphによって専有されている、という言葉遣いはmake senseでない。集団がpolymorphicである、というなら解る。heteromorphというのは、個体レベル・遺伝子レベルで観察される表現型のバラツキのことだと私は思うよ」。

この議論をしたとき、ああなるほど、これはとても真摯で植物学のターミノロジーと深く合致するなあ、とすんなり理解できたことを覚えています。

たとえば、

(◯) The evolution of seed heteromorphs (heterocarpy) in a monomorphic population.

(◯) The evolution of seed heteromorphs (heterocarpy) in a polymorphic population.

(×) The evolution of of seed heteromorphs (heterocarpy) in a heteromorphic population.

ということです。異型果実(という資源投資)がそれぞれ、その形質に関する単型集団で、多型集団で進化するというのが1つ目と2つ目。最後のは、意味をなさない(doesn't make sense)ということです。

で、なぜこういうエントリーをわざわざ書いたかというと、Readershipを意識して論文を書く必要があるということをメッセージとして伝えるためです。少なくとも、植物学の分野では、多くの研究者は上の◯×で書いたような言葉遣いを採用しています(という印象…)。で、植物の形質進化の数理モデルを構築するのであれば、その読者層を意識した言葉遣いに徹することで、読者や査読者のストレスを軽減することが可能だと考えられるためです。たとえば進化生態学ではhost–parasiteと書くべきであって、parasite-hostとは書かないほうがいい、ということです。

しかしいずれにせよ、こういった見識は論文や教科書を通じた座学と、研究者との(英語を用いた)議論を通じて初めて実感として身に沁みるはずで、好色な追い剥ぎや、飛行機乗り遅れを経験してまでフランスに渡ってよかったなあ、と思うのです

*1:おそらく、アンモナイトのまさに形morphのバラツキについて考察を深めているのでしょう。そういう意味で、ここでのheteromorphという言葉は狭義的な引用をされていると考えられます