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主に進化生物学の理論のブログです。不定期更新予定。

包括適応度理論の2010年


2010年は、協力行動の進化理論が歴史的な激動を経験した、といっても過言ではありません。そこで、2010年の段階で投稿or出版されていた包括適応度理論の論文をざっと紹介します。すべて2010か2011のはず。

  • - Nowak et al. (2010) Nature.

The Evolution of Eusociality
http://www.nature.com/nature/journal/v466/n7310/abs/nature09205.html?lang=en

まずはなんといってもこれでしょうかね。HarvardのPEDグループディレクター、Martin A. Nowakと社会生物学の父E. O. Wilsonが組んで、包括適応度理論に的外れな攻撃を行なっています。2010年といえばこれが有名ですが、実はこれ以外にも、2010年には非常に非常に素晴らしい論文がいくつも出版されているのです。

  • - Lehmann & Rousset (2010) Phil. Trans. Roy. Soc. B.

How demography and life history promote or inhibit the evolution of helping behaviors
http://rstb.royalsocietypublishing.org/content/365/1553/2599.abstract
素晴らしい。非常に明解に、包括適応度理論がまとめられた、非常に素晴らしい論文だと思います。どういう生活史や、選択のタイミングが、血縁度や包括適応度をいかに変化させるか、そしてそれはどう近似的に計算されるものか、詳しく解説されています。*1私にとって、これほどストンと胸に落ちた論文はありません。

  • - Ohtsuki (2010) Evolution.

Evolutionary games in Wright's island model: kin selection meets evolutionary game theory
http://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/j.1558-5646.2010.01117.x/abstract
大槻さんによる、島モデル上での包括適応度理論の応用の枠組み。一般のペイオフ行列に対して、Viscosな島モデル上での進化ゲーム理論が、包括適応度理論の枠組みにぴったりはまるという論文です。これまではpair-relatedness(2個体をサンプルして、遺伝的相同性を調べるF統計量)しか考慮されていなかったがために、ペイオフが相加的なゲームにしか適用されなかった包括適応度理論が、じつはそれ以上の高次の「血縁度」、具体的にはtriplet-以上の血縁度を考慮することによって、非相加的なゲームにも適用可能というものです。ここは大槻さんの大大大得意な、血縁度漸化式がやまほどでてきます。それ自体は多少ややこしく見えるのですが、実に実に実に見事な枠組みだと思います。僕もさっそく適用させて貰っています。Nowakはこれを読むべきでしょう。

  • - Gardner, West and Wild (2010) J. of Evol. Biol. [pdf]

The genetical theory of kin selectionhttp://onlinelibrary.wiley.com/store/10.1111/j.1420-9101.2011.02236.x/asset/j.1420-9101.2011.02236.x.pdf?v=1&t=hriam35z&s=74bb67bd788b21a69f39e8305523f5040f66b4b5
これはおそらくNowak et al. 2010を呼んだOxfordのひとたちが「たわけ!」という気持ちで書かれたのでしょうね…。しかし、実にこれまた明解に「包括適応度理論にかかわる誤解」をたてつづけにぶった切っています。いやーこれはもう少し読み込まないといけません。弱い淘汰がなぜ要請されないのか、その応用はどれか。進化的分岐がおこっても適用可能なのか、などなどが非常に分かりやすくまとめられています。Dawkinsの昔の「血縁選択の20の誤解」論文をけっこう意識しているのではないかな。

  • - Frank 2010a, b; J. Evol. Biol.

Demography and the tragedy of the commons [pdf]
http://stevefrank.org/reprints-pdf/10JEBdemog.pdf
A general model of the public goods dilemma [pdf]
http://stevefrank.org/reprints-pdf/10JEBpgood.pdf
これは、Direct Fitness Approachをいかに応用するか、という論文2編。しかし、これはなんとなく手前味噌な感じがするのと、GardnerやLehmannから見れば「あっそ」という感じなのではないでしょうか…でも流れ上、なんとなくここに挙げざるを得ませんでした。

なお、2011年には他にも

  • - Rousset & Lion (2011) J. Evo. Biol.

Much ado about nothing : Nowak et al.’s charge against inclusive fitness theory
http://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/j.1420-9101.2011.02251.x/abstract

  • - Wild (2011) J. Evol. Biol.

Direct fitness for dynamic kin selection
http://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/j.1420-9101.2011.02291.x/abstract
(動的最適問題の包括適応度理論。けっこうヘビーで読み難いのと、既にTroy DayとPeter Taylorが同じような仕事をTPBに掲載していたので、貢献度は低く、ぜんぜん引用されていない)
および

  • - Taylor et al. (2011) Evolution

Inclusive fitness analysis on mathematical groups.
http://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/j.1558-5646.2010.01162.x/abstract
(島モデル上での包括適応度を、数学の群論を用いて解析。適用範囲が非常に限られるが、Ohtsuki 2010やLehmann & Rousset 2010の枠組みはこの群論でのアプローチに乗る。ただし、別に計算がカンタンになるわけではない気がする)
もあります。「一月に一つ新しい手法を身に付ける」努力をしましょう。

*1:supplement dataも必ず一緒に保存しましょう。永久保存。