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主に進化生物学の理論のブログです。不定期更新予定。

学術論文・プレゼンでのフォント特集1:英文原稿 本文 編

書道が好きなこともあり、フォントが大好きです。そんな僕にとって、論文を書いたり、プレゼンの資料を作るのは、ちょっとした幸せな時間でもあります。

「フォント」と一括りに言っても様々なものがあるので、今回は、

  • 学術論文などの、原稿(本文、図)
  • プレゼンなどの、発表資料(見出し、本文)

を作成するにあたって有用なフォントをご紹介します。その基礎的な部分に関しては、伝わるデザイン が日本で一番わかりやすいです。

これから、

  • 英文原稿 本文
  • 英文原稿 図
  • 英文発表資料

について紹介します(和文については、今後、気が向けば…)。まずは英文原稿の本文編。

僕のシステム(Mac OS X Sierra)にてイタリック非対応のフォントについては紹介しません(使用機会が限られるであろうから)。

例文は、ドラマFriendsのスクリプト

Hey, Emma, you better appreciate this while it lasts because when you get older, you're not gonna be able to just sit around all day

を、websiteから引用しました。また、タイプセットには、Mac OSXのPagesとKeynoteというアプリを用いました。あるいは、LaTeXを用いて出力しました。

すこしでも、研究やプレゼンにお役に立てば幸いです。

前提1:SerifフォントとSans Serifフォントとは何?

Serifとは、ヒゲ飾りのようなもので、Serifフォントとは、アルファベットの文字の端っこに、(書道でいう)トメ・ハライ・ハネ等があるものを言います。*1

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代表的なSerifフォントには

  • Times
  • Utopia
  • Libertine
  • Crimson
  • Palatino
  • Calisto MT
  • Cambria
  • Century / Century Schoolbook
  • Charter
  • Frutiger Serif (有償)
  • Garamond
  • Minion Pro(有償)

などの系統*2が挙げられます。日本語では明朝体(みんちょうたい)に対応するものです。

一方、Sans Serifは、そうしたヒゲ飾りのないフォントのことを言います。Sansとは、フランス語で「無い」という意味です。Serifが無いフォント、ということですね。

枚挙にいとまがないのですが、系統としては

などが利用可能です。和文では、ゴシック体に対応します。

前提2:和文フォントは用いない

明朝のアルファベットなどは利用してはなりません。詳しくは述べませんが、イタリックにも対応していないし、海外の研究者にとっては「未知の」フォントだし、何より長文になると読みづらい。和文では美しいヒラギノ明朝なども、英文では用いるの、ダメゼッタイ。

英文原稿の本文にはSerif体を用いるべし

僕が把握している限り、かなりの割合の学術論文は、Serif体を利用して書かれています。学術論文というのは、著者の多くが研究者であり、読者の多くもまた研究者であるので、きっと研究者コミュニティの間では少なくとも、読みやすいフォントであると考えられているのでしょう。これはきっと、長い文章になると、セリフ体のほうが単語の切れ目が視覚的に認識が容易であることに起因するのではないかと考えられます。以下を比較してみましょう。

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上のほうが読みやすいと感じる人が多いのではないかと予想しますが、どうでしょう?ちなみに、Helvetivaで11ptにしたのは、12ptにするとすこし大きすぎるためです。

以下に、いくつかタイプセット例をご紹介します。フォントサイズはすべて11ポイント。★印は、有償。

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詳しい解説

泣く泣く5つに絞って、推奨フォントをご紹介します。それぞれのフォントの歴史については、

などを御覧ください。

Times New Roman

Timesの後継者です。違いはイタリックにおいて顕著です。

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なお、LaTeXではよりモダンな、stixフォントが利用可能です。TeXLiveにも入っているので、Overleafなどでもローカルでも、用いるには、\usepackage{stix}でok。美しい。11か12pt推奨。

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Times New Romanはたくさんのジャーナルで利用されています。Evolutionや、British Ecological Society系のジャーナル、そしてEcology、Ecology Letters、Physical Review系もそうですね。

Palatino

由緒正しきPalatinoフォント。これを用いておけば、「可読性が低い」と思われる可能性はほぼゼロだと思います。すこし文字が大きめなのと、行間が狭く感じられるかもしれないので、微調整が必要。10pt推奨。和文にもフィットします。

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LaTeXでは\usepackage[T1]{fontenc}\usepackage{newpxtext,newpxmath}でok。Royal Society系のフォントは、最近になって、Plantin Stdというフォントから、Palatinoに変更されました。

Charter

すこし癖が強いフォントなのですが、遠目からの可読性は群を抜いています*5

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LaTeXでは\usepackage[charter]{mathdesign}\usepackage[T1]{fontenc}でok。ただ、ρや∂などが少しだけブチャイクなのが欠点。ジャーナルのGeneticsなどではこのフォントが利用されています。

PT Serif

あまり知られていないかもしれませんが、Googleの提供する素晴らしいフォント。僕も履歴書はこれで書いています。

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LaTeXでは\usepackage{paratype}\usepackage[T1]{fontenc}\usepackage{PTSerif}でok。残念ながら数学フォントは提供されていないので、僕は

\usepackage[charter]{mathdesign}\usepackage{paratype}\usepackage[T1]{fontenc}\usepackage{PTSerif}

として、先述のcharterを数学用のフォントにとして置換利用しています。

Calisto MT

Microsoft Officeにはおそらく標準的に備わっているはず。癖の強いフォントながら、イタリックにも対応しているは、遠目に見ても読みやすいはで、最も推奨したいフォントのひとつです。欠点は、LaTeXで利用不可能なこと。

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余談1:Googleさんあざっす

GoogleのSerifフォントは実に素晴らしいものが多いので、例をお見せします。くわしくはググってください。

Googleサンセリフ・フォントも実に素晴らしいです。それについては今後。

余談2:Linux Biolinum

サンセリフのようで、セリフ。セリフのようで、サンセリフ。不思議なフォントで、新しいカテゴリを作り上げたのではないかと思えるほどの見栄えです。標準には備わっていないので、ダウンロードが別途必要です。

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履歴書に用いる人も散見されますね。LaTeXでは

\usepackage[sfdefault,mono=false]{libertine}\usepackage[T1]{fontenc}

でok。エルなどが特徴的ですね。Oikosのタイトルなどはこれ。

余談3:ジャーナルにおけるフォント

  • 一部の学術論文では、いまだにGaramond、Baskervilleが利用されています。数式が使われる場合には、読みにくいったらありゃしない。
  • Nature系は一律、Minion Proが用いられています(残念ながら有償)。
  • Trends in Ecology and Evolutionは最近まで、Century Schoolbookが用いられていて、大変ふとく読みやすいフォントだったのに、最近になって、Helvetica(系)になってしまいました。改悪。
  • Plantin StdやWarnock Pro、Frutiger Serifも太く美しいフォントですが、有償。

まとめ

以上、ぼくの主観で、5種類の標準的なフォントを選抜して紹介しました。他にも普段から使用するフォントもあるにはあるのですが、まずはこれら5つを原稿に用いて比べてみて、好きなものを利用されるとよいと思います。

*1:https://bulan.co/swings/roman_basic-knowledge_history/ の解説が素晴らしい。

*2:系統、というのはつまり、フォントの開発に伴う後継のフォントがあるということ。フォントは進化するのである。

*3:ただしOptimaやBiolonumは、サンセリフとセリフの中間的な特徴を有していて、セリフが少しある、モダンなフォントです。

*4:No more Tofuの略

*5:Lucida BrightやFrutiger Serifなどもそうだと思う

*6:Notoは、Noto Serifはもちろん、Noto Sansが凄まじく読みやすい。