海外からのアカデミア就活:日本への遠い道
海外に住んでいても、日本国内の公募を目にすることがあります。
そのだいたいは「簡易書留で書類を提出のこと」。そして「別刷りをX編Y部印刷」。
単純計算のため、一編の論文を10Pだとして、5編10部印刷するとしましょう。両面印刷にして、10×5×10÷2 = 250枚の紙が必要になります。A4一枚はだいたい4gとのことですから*1、250枚×4[g/枚]=1000gの書類に。重いなあ。
これをFedEx Rates and Transit Timesにていくらかかるか計算してみましょう。行き先は例えば、神戸大学としましょう。 Fedex Pakないし、Fedex Envelopで送付してみることにしましょう。詳しくは表示しません。結果はなんと
\[ 100ドル以上 \]
おっと、面接に呼ばれました。Skypeダメ?現地でやらないといけないんですね。えっ!旅費は出ないのですか…?そうですか…自費ですか…。往復1400ドルと見積もりましょう。
…ということは目下、郵便と飛行機で出費は100+1400=1500ドル…今のレートで16万8000円/応募ですか。
気を取り直して、5つほど公募に出してみましょう。16万8000円×5 = 84万円。*2
たとえば海外学振だと、年間525万円が「給与」として頂けます。1年に5つの公募に出すとすると16%以上が応募費に消え得る。
おっと、しかも海外学振だと、日本に帰国している間は給与がストップされる…!?ということは、たとえば毎回4日ほど日本に滞在するとなると、20日分の給与が消えることになるので、16%というのは過小評価。*3
往復飛行機代1400は見積もりが高すぎる?いやいや、羽田や成田、関空から移動してホテルに泊まって外食して…となると、どうでしょう?
日本人の僕には出せません
そう。このままでは若手研究者は、海外からは戻ってこれないのです。
もしも現代の科学国策が若手研究者を海外へ送り込み、経験を積ませて帰ってこさせることなのだとしたら、前者はまだしも後者は功を奏しません。
だって帰れませんから。
ぼくが知っている公募の中には、電子メールでの公募を受け付けるものもあります*4。こうした公募がどれだけ有難く、ロールモデルとなることか。煎ずる爪の垢すら取れなさそうな素晴らしさ。
海外の研究者も出せません
だいたい日本以外の公募は電子メールでの応募を受け付けます。いや、たとえばポスドクとなると、事前のSkype面接だけで済ませるところすらあります。 そうなると、わざわざ郵便で100ドル以上かけないと出せない公募に、海外研究者が出しますか?いいえ、出しません。そんなことをする間に、ほかの公募にロウコストでガンガン出します。
オフィス・インタビュー
ここで、アメリカの友人に
- メール応募不可
- 論文をプリントアウトして送付のこと
ということを伝えたときの反応をご紹介しましょう。
- “That's soooo ridiculous”
- “What for? No emails?”
- “Are there no printers in Japan?”
ご提案・要望
- 電子メールでの受付を強く望みます。
- 論文もPDFで提出させてください。
- こうした改善は、国内の応募者にも有益かつ、公平です。
- せめて提出方法を交渉させてください。
- 「公平に取り扱う」のであれば、海外からの応募で著しく不利・不公平な立場の研究者を他の応募者と公平に扱うことを検討して下さい。
- どうか、若手の苦労を忘れず、会議での提言を行なって下さい。
- 守るルールの根源的理由が「伝統だから」でしかないのてあれば、そんなルールは撤廃してください。
こうした意見は、若い研究者が発信していかねばなりません。そうすることで、日本の科学の状況を少しずつ改善する動きを見せるしかないのです。
追記
海外のポジションではだいたい、旅費をサポートしてくれる、ということを強調し忘れました。
また、本記事公開後、さまざまなご意見を頂戴しました。
人事応募書類で、
— Tsuyoshi Miyakawa (@tsuyomiyakawa) 2018年1月5日
「・電子メールでの受付を強く望みます。
・論文もPDFで提出させてください。」
とのこと。ぜひ。さらに、
・経歴・業績はResearchmap と Google Scholar CitationsなどのURL記載で代用、
・OA論文はPDF送付省略可、
・(旅費無しなら)面接はスカイプ、Zoom等可、
もぜひ。 https://t.co/fy5RtheCu3
全くもってその通り。履歴書や業績を(大学・研究所独自のスタイルで)提出するよりも、すでに確立されたORCIDという世界のスタンダードかつ画一化されたシステムを利用するのは、良いアイデアだと思いました。そしてそのうえで、さらに必要な情報があれば、追記させればよいと思います。
このエントリでは言及されてないけど、お金もだけど「時間」も重要なファクターの一つだと思うんだよな。往復に1週間以上とか、なんだよ、大航海時代かよ、みたいな(流石にそれより速いか)。
— maz (@dynamicsoar) 2018年1月4日
Couldn't agree more.
鍵アカウントの方からは、「Reference Letterを(当然、別途)郵送させる大学もあった」とのハナシも聞きました。そうか。たしかに応募者が見ることの出来ない情報なんだし、別途郵送ということになるのか。
…え、海外からですか?
意味わからない文章を書いてしまった。"海外学振は、日本で就活と研究をする日の給与は支払われるはず”と書きたかったです。
— つなぽん@fullyvaccinated (@tunatuna_01) 2018年1月5日
ほえ〜!それは知らなかった。でも、残しておきます。間違った記述を行なってしまった場合は、ここで言及してフォローしていきます。
コメント欄より
NIKIさん
遺伝研での公募に関する情報を頂戴しました:
国立遺伝学研究所の人事の教員公募
- 応募書類はすべて電子メール送付でOK。
- 論文別刷りはPDF。
- 略歴書のみ指定の様式, 後の書類は自由形式。
- 海外からも含め面接への旅費支給あり。
- 照会者のリストだけで、推薦書の添付は必要なし。
となっています。ぜひ、関係するような公募があれば応募してみてください。
遺伝研、素晴らしいですね…。遺伝研には、海外からのポスドクがいるという話も聞くのは、こういうことでしたか。これぞ国際化。
vtpさん
今はjrec-inで、募集機関側がweb公募も選べます。それすらも、使っている機関を殆ど見ません。私は公募を、それこそweb公募でやってほしいと提案しました。事務は、前向きな反応でした。権限がある方々にも話し、反論もありませんでした。しかし、実際にやる段になると、そもそもそんな提案などなかったのごとく、今までやってなかった事はやらないという顛末でした。日本で地位が高くなった多く方々は、肩書が上の方々への忖度は非常に上手ですし、自分の評価に関連しそうな事には周りを犠牲にしても非常に敏感に対応します。しかし、彼らには、下々の苦労を解消するために、例え上からの評価基準に入ってなくても、新しい事(web公募も新しくも無いわけですが)をやってやろうという意欲が必要とされてこなかったんだと思います。
補足としてJREC-INとは、日本の仕事の広告を載せるポータルサイトのようなものです。そこにweb公募項目があったとは…。これがあれば直ちに状況を大幅に改善できると思います。
HMさん
素晴らしいですね。 現在、海外在住で日本国内のいくつかの公募にアプライしていますが、個人的に問い合わせしてみると、「メールでも大丈夫です」と回答していただける場合もあるようです。今のところ、「メール不可」というのはないので、公募主に事前に問い合わせてみるのも良いかもしれません。あと、公募されてても、いわゆる「出来レース」となっている場合もあるので、公募期間が極端に短いのは疑ってもいいかもしれません。公募なのに「公平」ではないのはどうかと思いますが、まあ日本ではいまだにそんなもんだとは思いますが。
やはり事前に問い合わせる、というご意見が多いようです。ぜひそうしたいと思います。
Sallyさん
改行に伴う改変が少し有りますが:
すぐ記録が出てくるのでも、
岡山大学グローバル・パートナーズ講師(特任)の公募(国際担当)
https://jrecin.jst.go.jp/seek/SeekJorDetail?fn=3&id=D118010012&ln_jor=0 (海外在住でやむを得ない場合)、
東京大学大学院理学系研究科 物理学専攻 研究員公募
https://www.shikoku-u.ac.jp/docs/koubo20171012_jidou.pdf
高知工科大学数学公募
https://www.kochi-tech.ac.jp/disclosure/img/mathematics20171206_1.pdf
http://www.ipmu.jp/job-opportunities
で電子応募がありました。制度の制約ではないのです。若手研究者の苦労に甘え過ぎだと思います。結果的に、余計な時間を多数の若手研究者に使わせて、昨今の、日本の研究情勢の衰退の一因になっていると思います。
ありがたい情報。結構ありますね。こうした改善がどんどん進んでほしいなあ。
追記2:愚痴ではない。
建設的にものごとを進め、改善に繋げられればいいなあと思います。
追記3:感謝
そのうえで、電子化を進めたり交渉などに柔軟に応じてくださる事務・大学教員の方々には、頭が上がりません。ありがとうございます。