Life is Beautiful

主に進化生物学の理論のブログです。不定期更新予定。

国外での研究生活

私は修士の頃、博士を取るまでに十報は論文を書くぞ!と息巻いていました。しかしいざ研究を始めると、新たに何か結果が導かれたり進んだりすることの方が稀で、何も生まれない日の方が大部分でした。 意欲こそ枯れぬものの、自信が日に日に衰退していきました。かたや、同期や少し上の先輩方がバリバリ成果をあげるのを見聞きしては苦しみ、さらには自分より学年の若い方もバリバリ成果をあげ始めているのを知ると絶望していました。

SNSで、そんなニュースを見るのはただただ苦痛でした。それでも、苦虫を噛み潰したような心持ちでも、「おめでとう」の言葉をかけるのです。そしてそんな心境になる自分のことこそが、醜くて嫌でたまりませんでした。

私は嫉妬深い人間です。七つの大罪、エンヴィーなのです。大罪というくらいですからしかし、人間の自然な感情であり、それが湧いてくることを否定することは難しいでしょう。 そんな厄介な自分といかに一生付き合っていくかを意思決定するのが、あくまで精神論ですが、第一歩です。

でも、鬱々とした気持ちで日々を過ごすと、研究を楽しめなくなってきてしまうのです。 研究に向き合えなくなってしまい、真理の追究*1ができなくなってしまうのです。 そしてそれによりさらに、気持ちは落ち込んでいき、研究をやめたくなるのです。正のフィードバック。悪循環。

こうして、ラボに行くモチベーションは低下します。明日から本気出す、の毎日です。生活リズムは乱れ、さらに研究は進まない。これは、深刻なステージでした。

国外逃亡

しかし私にとって色々幸運だったのは、良い友人に恵まれたこと、そして、国外で長く過ごしていたことです。

良い友人は、研究を面白がって聞いてくれるし、論文が出たらおめでとうと言ってくれます。 一緒にビールやコーヒー、ランチをとる仲間がいたことは、本当に、有り難いことでした。*2

一方、研究が進まないのに国外にいたということのメリットは、なかなか耳にしたことないものかもしれません。 国外で研究に取り組み、精神を健やかに保つ「外力」について、今回はすこしだけ書いてみます。

1. 必然的な朝型化

日本の2つ良いところを挙げると、治安の良さと食事(というインフラの)手に入れやすさです。*3

逆にいうと、国外に住むとそれらのありがたみを痛感するということですが、私にとっては、それも好転しました。

日本では、深夜までラボにいて、夜遅くにご飯を食べて、という夜型生活が可能です。真夜中に歩いててもまあそこまで怖い思いはしないし、深夜でも出来合いのご飯にもありつきやすいからです。

一方で国外だとそれができません。深夜に空いてるスーパーなぞないし、深夜に行くのは怖いし、外食すると高い。

そうなると必然的に、スーパーが開いていて人も出歩いていて安心できる時間にはラボを退室し、買い物して帰宅・料理し、朝から活動するために早く寝る、というリズムが生まれたのです。*4

2. 不調でもラボに通える

私の感覚ですが、ラボに三日も顔を出さなかった場合、すぐに話題にのぼります。みんなに心配されちゃいます。それを防ぐためにも、研究が不調でもラボに行かざるを得ません*5。第一、ラボで友達と話すのは楽しいし、社会に顔を出すことなくしたら、国外まで来ているのに勿体無いな、と感じていたのです。

私は、「とにかくラボに行く」 ってめちゃくちゃ大事だと思います。ちょっと時代は変わりましたが、「とにかくオンラインのミーティングに出る」ことは、時間を消費するのは間違い無いですが、とても重要です。人と関わることなく研究を行なうことは不可能なので、社会と関わり続けることが、研究を続けることに繋がるとすら思います。危ないのは、研究しているのに世間から切り離されたいと感じてしまうことです。研究というのは本来、研究室もふくめ社会で人々と関わり合いながら行なってこそです。ちょっと活性化エネルギーが必要かもしれませんが、とにかく習慣として、惰性として、なんでもいいからとにかくセミナーに出てみるというのは、とても重要なことです。

3. 日本との時差

時差があると、たいていのタイムゾーンの場合、相手が寝ている間に働くことが可能です。逆も然りです。即時共同作業でも無い限り、分業的に並行作業できます。 すなわち、概日リズムの非同期が、タスク分業のローテーションを可能にするのです。これには、かなり助けられました。

また、私の場合はSNSでも時差を感じたのが助かりました。嫉妬対象のニュースも遅れて目に入るからです。

まとめ

とまあ、国外環境という、今では経験しづらいことについて書いたのですが、これはリモートワークでもあてはまることが多くあるのでは無いかと感じるのです。

人との距離が遠い。

研究が進まない。

そんなときに、どうやってモチベーションを維持するのかの参考になるといいなと思います。

*1:禁忌を犯す、とかではありません

*2:ヨーロッパは、アメリカや日本と比べると、ランチの時間を長くとる傾向にある気がします。そんなリラックス時間にかわす雑談は、英語であっても、心落ち着くものです。

*3:値段も含む。ただし飲食業に携わる方の収入が高くないことは問題であふ。とはいえ、最低限の食事にかかる費用が安く済むことは助かる

*4:ちなみに、こうした国外経験から、私は料理する習慣がつき、まったく億劫でなく、楽しく思えるようになりました。

*5:ちなみに私は、夜ご飯をたくさん作り、それを翌日のお昼のためにすこし残しておき、お弁当箱にそれを詰めてラボで食べる生活をしていたので、家でお弁当箱でご飯を食べるのはなかなかの屈辱だったので、ラボに行く気持ちになった