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Life is Beautiful

主に進化生物学の理論のブログです。不定期更新予定。

多様体

多様体(manifold)というのが、数学、とくに幾何学で多く登場する。いったい何か。一言で述べるなら、地図の描かれた図形である。

地図とは何か。メルカトル図法の地図などを思い出してほしい。あれは、(どこを規準、つまり原点、にとってもいいが)座標を描ける。たとえば「地図上で東京タワーから東に1000km、北に500km行ったらAがある」という事実関係によって、地図上の地点Aと「東にX km、北にY km」というものが対応する。つまり、座標(X,Y)が対応する。地図とは座標のことである。

いっぽうまず、原点の取り方の任意性がある。たとえば、ロンドンのSmithさんの家を原点にしてもいいし、北極を原点にしてもいい。つまり、原点の選び方は一意的ではない。また、「東にX、北にY」というのも、逆に「西にZ、南にW」と述べてもいい。前者と後者で座標の値じたいは変わるものの、(X,Y)と(Z,W)とは、同じ地点を表している限りは同じ情報を持っていることになる。つまり、"座標の方向(など)"取り方も(少なくとも)一意的ではない*1

以上のように、座標の方向や原点の取り方に一意性はないけれど、平面地図の場合は簡単だ。それでは次に、カーナビの地図を考えてみよう。また、イメージとして、陸続きの2つの国U,Vをもってほしい。

ある車のカーナビには、U国の地図しか登録されていないとする。その車でV国に侵入するとしよう。するとどうなるか。カーナビは、U国を走っている間は常に座標情報=地点情報を我々に提供するだろう。ところが、V国に入ると、その地図は機能しなくなる。地図が定義されていないせいだ。

そのためにはどうすべきか。V国の地図をカーナビに導入する必要がある。つまり、地図を繋ぎ合わせる必要がある。

「地図を繋ぎ合わせる」ためには、少なくとも糊代が必要であろう。そしてそのつなぎあわせ方は、滑らかであるべきであろう。(U国の境界とV国の境界=UとVとの共有部分)

以上が多様体である。

つまり、1つの図形W(=U国の領土+V国の領土)があるとしよう。そこの各地点に、座標情報を与えたい。局所地域Uと局所地域Vの2つのカーナビは、ちょっと被っている共有部分でもって、なめらかに繋がっている。これで、"地図が一枚"になった。

つまり、多様体というのは、局所的に定義された座標が互いに滑らかに繋がりあった図形のことである。

数学的には実際、(ラフには)次のように定義される。細かい部分は捨ておいて、ポイントを拾ってほしい。

ハウスドルフ空間Xの部分集合)Mが多様体であるとは、

  1. Mの部分集合U,Vがあって、UとVとは共有点(糊代)を持ち、かつ、その各U,Vのなかで、Mはそれぞれ座標付けされている(地図が描かれている)。
  2. Uの座標を(x,y)、Vの座標を(a,b)とすると、(x,y)と(a,b)とは滑らかな座標変換を持つ。

「地図を一枚にすればいいじゃない」とおもわれるかもしれないが、必ずしもそうは行かない。U国の地図には、V国は描かれていないからだ。なので、交わっている部分で繋ぎ合わせるという操作を行なう必要がある。

多様体とは一般には、いくつものなめらかな地図でつなぎ合わせ(貼りあわせ)られた図形のことなのである(図)。


たとえば、サイコロ(の表面)は多様体である。局所的な地図は各面の地図で、繋ぎ合わせ方はそれらの境界部分(辺)である*2
球面も多様体である。その地図の描き方は、球を机の上においた時の接点からの「タテ・ヨコ・タカサ」でもいいし、球の中心 を原点にとって「緯度・経度」で指定してもいい。

「互いに滑らかに繋ぎ合わさった局所的な地図で覆われた図形のこと」を多様体と呼ぶので、あーる。

*1:高校で習う「極座標」なども思い出してもらえるといい。あれは、(x,y)座標を(r,Θ)座標にとりなおしている。よって、二次元平面の座標のとりかたは一意ではない。三次元も同様である。

*2:厳密には実はこれはなめらかな繋ぎあわせではなく、連続的な繋ぎあわせ、である。U国とV国のつなぎあわせ方もそう