Life is Beautiful

主に進化生物学の理論のブログです。不定期更新予定。

ノロウイルスとの激闘とそこから学んだこと

3月は頭から激忙でした。 3/5は翌日のための発表準備でほぼ徹夜で作業敢行。修士や卒研の後輩たちにはさんざ、「発表準備をギリギリにするな」とえらそうに言っていたわりに、先輩はこれです。でも言い訳させてもらうと、「どこまで削るか」という段階ではあったのです。

3/6にはGame Theory Workshop 2015にて招待発表の機会を頂戴し(Oさんありがとうございました)、無事に発表を終え、懇親会では2:00くらいまで日本酒をスイスイと。

3/7は、午前のセッションでは頭が自重に耐えられなかったようでしたが、少し早めにおいとまを頂き、山口は宇部へ。兄夫婦や義姉の妹たち、そして兄の友人たちと2:00くらいまでドンチャン騒ぎ。牛たん、酢ガキ、タコの石焼…どれもこれも、絶品でした。ここでも日本酒を何杯もちょうだいしました。はじめての獺祭も満喫。

3/8は朝8時に起床のち、シャワーを浴びてみんなで新山口駅まで行き、ボクは博多へ、彼らは神戸へと発っていったのでした。その12:00前には博多に到着したので帰宅。そしてフットサル大会にむけて公園で練習。14:00から大会。結果は芳しくないばかりか、最後には尾てい骨に蹴りを入れられ、非常に痛い思いをしました。

大会後にはメンバーで打ち上げを行ない、日本酒をスイスイと頂きました。24:00くらいまで飲んで、帰宅。その3日間の激動を終え、歯磨きをしてパジャマに着替え、安心して就寝し、朝を迎えるはずでした。心地よい眠りに身を預ける僕。

そう、2:36に、猛烈な吐き気を感じて目がさめるまでは…

ノロウィルス感染に伴う症状1:吐き気

このトシになってくると、「吐き気」に確信を持つことができます。小さいころは、「これは吐き気なのだろうか?」という迷いが見られました。*1

でもそんな迷いはもう捨てました。

さてそんな27歳の男、2:36に目が覚め、吐き気を確信。酸素をたっぷり吸って持ちこたえるも、限界。「飲み過ぎたか…」と観念し、いさぎよくトイレへ。地獄の始まりとも知らずに…

3:32 ふたたび吐き気で目覚める。「…またかいな?」さきほど吐いてからお水をしこたま飲んだのに…と思いつつも、また繰り返す。終えてからは水を飲む。

4:27(か29) みたたび。これでもか、というくらいに…。また水を飲む。…ひょっとしてウィルス性?……まさか……?

5:29(か27) しつこい。っていうかもはや何もでない。。。このころには、下痢もおともする。そして、下痢の様子が少し違う。いつもの君ジャナイ。…水だ。。この頃には、ノロへの嫌疑が確信にかわる。だって、噂には聞いていたのです。

便がそれはもう…スゴい、と。

5:39 サッカー友達に「ごめん。。。体調が絶望的に悪化したので今夜のサッカー無理ぽです。。帰宅してからずっと、寝ては吐いてます」と、LINE上で遺言を送りつける。さすがにその晩のサッカーは断念。

10:46 義姉にメール。

「おほほ、ノロにかかった…」

そこからしばらく義姉とやりとり。めっちゃ仲がいいというのもあるが、彼女は看護師だったので便りになるのです。病院に行けたら行くようにと言われるも、意識が絶える。

14:00ごろ? ぬっと起きて、水を飲む。とにかく喉が乾く。胃が空っぽなのも気持ち悪い。なにか食べるものはないか、とかばんをあさると…

なんと、、、ウィダーインゼリーが!!

そう、宇部でベロンベロンに飲んだあの日。「翌日の朝ごはんに」と、購入していたのである!自身の英断を讃えつつ、チュルンと完食。それがうまいのなんの。

18:47 義姉から着信。寝ていたので出られず。ほどなく、かけ直し。17分ほど、兄(医者)をまじえて三人で会話。いきなりビデオ通話にしてきやがこられたので、戸惑う。髭ボーボー、髪ボサボサ、幸うっすい顔でお出迎えすると、

「きったねぇ顔〜〜!!ゲラゲラゲラ」

と笑われる。とりあえずいろいろとアドバイスを受け、外に出る決心をつける。

ノロウィルス感染に伴う症状その2:発熱

19:35 シャワーをあび、熱を測る。38.1度。義姉にも生存確認のメールを送ってから、最寄りのセブン-イレブンへ。

大量のウィダーインゼリーと、スポーツ飲料、熱さまシートをカゴに入れる。さっさと買って帰ろう…と思ったら、レジでnanacoカードへの加入を薦められる。

なんでこのタイミングでお嬢さん、無慈悲な…と思ったら、このかた研修生。これは漢気みせなあかんやろ、ということで、必要事項を記入して加入。彼女に幸あらんことを。

お嬢さんの達成感にあふれた笑顔を横目にふらふらで帰宅。体調悪いときは高価な壷の契約をさせられないように注意せねばならない。

20:15 帰宅。ウィダーインゼリーをがばがば飲んで、睡眠。

3/10に突入。

13:00 起床。とりあえずウィダーインゼリー。気分は悪くないが、頭痛が止まらない。熱さまシートを貼って眠る。アーセナルマンチェスターUに勝利(@FAカップ)したことを知り、ウェルベックのゴールやモンレアルのゴールを何度もにやにや眺める。

そこから時間の記憶がおぼろげ。

ノロウィルス感染に伴う症状その3:下痢

20:00ごろ目覚める。だいぶん体調が回復したので、トマトサラダを作って*2食べたり、ヨーグルト食べたり、ウィダーインゼリー飲んだり。

しかしそこから、この世のものとは思えぬ下痢のターンが。それまでに摂取してきたウィダーインゼリーがすべて出てきた気がする。もったいな。7,8回はトイレとベッドを往復。トイレットペーパー1ロールをなんと一日で使い切るという暴挙。

曲りなりにも研究者のワタクシ。ノロウィルスは高温・アルコールへの耐性があることを知り、それならばと次亜塩素酸やな!ということで便器周りをこまめに、ハイターでお掃除。おかげで便器がペカペカ。掃除やトイレのあとは、石鹸でしっかり手洗い。普段からこのマメさがあればね。環境負荷が高いハイターですが、分解力の高さはとても助かる。ついで、台所で使ったグラスの類もすべて、ハイターでお掃除しておいた。

結局1:00すぎまで眠れなかったけど、3/11にはようやく復帰。体のだるさは少しあるものの、ほぼ通常運転状態まで回復しました。しかし快復祝いに「かつや」でロースカツ定食を食べてしまい、しばらくフラフラ。もっと胃に優しいものを選ぶべきやってけど、胃が脂を欲していた…。

ノロウィルス感染時には、医者にかかるべき?

ノロウィルスの症状には、嘔吐・下痢・発熱に加え、本当は腹痛というのもあったみたいです。でも今回は僕には表れませんでした。筋肉痛だったから、というのもあるかもしれませんが、胃が痛んでのたうち回る、という、インターネットにあるような体験談はできませんでした(したくない)。

ノロウィルスやインフルエンザにかかると、「病院に行くとウィルスを撒き散らしてしまうから、控えるべきか?」という疑問が取りざたされますが、これは定性的なYES/NOでは答えられないように思います。ノロウィルスにしろインフルエンザにしろ、それ自体はホストを完全に蝕んで殺してしまうことはありません。怖いのは、それに伴うシンドロームだと思います。代表的なのは脱水症状だったり、普通の風邪の場合は肺炎でしょう。

そういった併発を起こしやすい、あるいは自律的に防ぎにくいのが、幼児・老人といった年齢の方々なのです*3

なので、そういった方々に対しては、夜間であったとしても、医師の適切な処置を仰がせるのが望ましいように思います。撒き散らさないためには救急車を呼べばよいわけですし(おそらく車内での排泄物の処理に関しても対応してくれるだろう)、症状が和らぐのなら、そちらの道を選ぶべき。

また、「ノロウィルス」は病気ではなくウィルスの名称です。それが体内に入り込むことで体が反応し、様々な排泄・生理がはたらくのです。ウィルスの種類はともかく、ウィルスによって胃腸周りの調子が落ちることを、「急性胃腸炎」と呼びます。今回のボクのような典型的な症状は「ノロウィルスだ」と自己判断できるのですが、一般には、より重篤感染症である可能性もあるわけなので、医師の診察を受けて判断を委ねるほうが賢明なように思います。

そういったことで悩む前に、診療所へ連れて行き、吐瀉物などの処理をハイターで行ない、使用した食器や汚れた衣服の徹底的な消毒する方法を調べたほうがいいと思います。

とはいえ、酢●キという明らかな戦犯が思い当たるなら、ノロに感染している尤度は一気に高まります。その場合、命を削ってまで外出はせずに、ひたすらスポーツドリンクを買い込んで籠城戦に持ち込んでもいいと思います。賢明な判断を下せる限りは。

ノロウィルスの進化

その、病院には行っていない当の本人は、ゴロゴロしながらも、ノロウィルスのこと、たくさん勉強させて頂きました。

ノロウィルスの多様化(たくさんの種類が生まれること)には、特定の座位間での組み換えがキーになっているのではないか?という論文 http://jvi.asm.org/content/84/16/8085.short Divergent Evolution of Norovirus GII/4 by Genome Recombination from May 2006 to February 2009 in Japan.

ウィルスなどは世代時間が短くかつ集団サイズが大きいために、突然変異によってサブタイプ(枝わかれしたできた新しい系統)が連続的にどんどん出現してくる(進化が速い)のです。そのサブタイプは、特定の座位の間の組み換え(遺伝子のシャッフルのようなもの;これは生物に通有的な現象です)によってできているということです。それを特定した、というのがこの論文。

現在、ノロウィルスには有効な治療薬が見つかっていません。しかしこうした基礎研究で解明されたゲノム情報を用いることで、将来の治療薬の開発に期待ができるのかも知れませんね。

一般には下痢の原因は複数ある

正露丸ノロウィルス対策ページが、全然示唆がなくて面白いです。

ノロウイルス篇 | おなかの悩み相談室 | 大幸薬品株式会社

ウィルス性の胃腸炎の場合、ウィルスを早く出すために、「下痢止めを服用すべきでない」という意見があります。まず、下痢のメカニズムは複数あって、特に、ウィルス性のもの、過敏な反応によるものです。前者はウィルスを早く体外に排出するための体の応答で、後者は冷気などに体が応答しすぎてしまうものです。

それに応じて下痢止めにも2種類があります。体の過剰応答による下痢に対しては、「腸の動きを止める」下痢止めが有効です。応答をストップさせてやるという、なかば強引なしかし確かな治療と言えます。

しかしウィルス性の下痢の時にそれをしてしまうと、ウィルスを外に出したいのにもかかわらず、腸の動きが止まり体内でウィルス集団が増殖し、さらに快復が遅くなってしまいます。なので、そういう時は胃腸の動きを止めない下痢止めを服用しましょう。

で、正露丸はどっちやねん?と思ったら…あっさりとノーコメント。「ノロの時は飲まないで」「ノロにも有効です」という提言を、根拠とともに示すのが、企業としては望ましいように思うのですが、他にウェブサイトはあるでしょうか。

不顕性患者の存在

それにしても、ノロウィルスに不顕性感染者、すなわち感染しているのに症状が出ない人(場合?)が実在するというのは面白い。それがもしもノロウィルスの(伝播の)戦略だとすると…?

マダガスカルを思い出す

マダガスカルで食中毒に感染して、1ヶ月も下痢が続いたのは、3年前の3月。懐かしい。

カキに中たる、といえば!

https://www.youtube.com/watch?v=W3TqbuxYP8Q

*1:9歳のクリスマスには、パンプキン・マフィンをお昼ごはんに食べたその晩に気分が悪くなり、薬を飲まそうと口に突撃してきた母の手先に盛大にドバァしたことがあります。それ以来、パンプキン・マフィンが嫌いです。カボチャも。マフィンも。好きなのに。。

*2:ノロウィルスに感染した人を調理台に立たせてはいけない!

*3:赤ん坊やご老人は体質的に弱いというのと、じぶんで判断して行動を起こせないためです。たとえば赤ん坊が冷蔵庫をあけてスポーツドリンクを飲むなどは考えにくい

英文校閲会社のまとめ

英文校閲ってとても高いです。そして色んな会社があってよく分かりません。

しかし以下のウェブサイト

研究者のための英文校正比較 - 校正会社30社以上を徹底比較

はとてもよくまとめてくださっています。素晴らしい。

しかし、Uni-edit社は、科学や論文に関するブログ・エントリーに逐一広告コメントをされるのは、やめたほうがよいと思います。

必携!海外で役立つ書類

海外に来ると、様々な場面で様々な書類の呈示を求められる。

  • パスポート。これは当然でしょう。ユニバーサルな身分証明証。

パスポートは必ずスキャンして、そのプリントアウトもしておく。紛失時には発行の手間が圧倒的に簡略化されることだろう。また、旅券番号だけが必要な場合のために、付箋にメモをして、それをペンに巻きつけてテープで固定すると、ペンを見ながら旅券番号を記入できる。ただし近年はimmigration cardがどんどん廃止されているので、旅券番号だけが必要となるシチュエーションは、航空券の予約時などに限られるだろう。

  • e-チケット。個人的にはプリントアウトしないといけないというシチュエーションに陥ったことはない。タブレットやパソコンにpdfとして入っていれば十分だろう。

以下の3つはあまり役に立たない。なんなら日本の金庫に置いてきてもいいくらいだ。

  • 学生証。日本のものはだいたい日本語で書かれてあって、studentshipの完全な証明にはならない。
  • 免許証。誕生日・発行日を昭和やら平成で書かれても、海外では役に立たない。
  • 保険証。そもそも日本で享受できるサービスを保証するものであって、海外ではほぼ論外。

とくにクリティカルなのは、生年月日。日本人は顔が可愛いからなのか、年齢認証を求められることも、多々ある。お酒を買う時とか。その際、パスポートのコピーがあると便利だ。

研究者は、他にも次のような書類を持参する、あるいはスキャンしておくことが大変望ましい。僕は学生なので学生の場合のそれが中心だ。

  • 在学証明書 studentship。国際学生証を持っていれば別なのだけど、これがないと本当に現在、日本で大学に通っているのか証明できない。だいたの大学は英語でも発行してくれる(はずな)ので、あらかじめ発行してスキャンしておく。実際、これを提出したら学会参加の学割が受けられた。*1
  • 卒業証明書 diploma。これがないと、本当に過去に自分がマスターを取得したのか、証明できなかった。発行してスキャンしておく。学位取得証明書や見込証明書も、タイミング次第ではスキャンして保存しておくとよいだろう。
  • 交付内定通知・決定通知書 proof/copy of fund。案外これが盲点で、自分が本当に日本で科研費をもらいながら研究している立場なのか、証明ができなかった。これは僕は大学の事務の方にお願いしたら、スキャンして送って頂けた(感謝!)。予めスキャンしておく。ちなみにたぶん、英語版は発行されないので、どうしても日本語のものを提出することになる(未確認;いずれにせよ僕は日本語版で押し切った)。

上の3つは、実際に大学側に提出を求められたものだ。もちろん、evernotedropboxに入れることで、ラップトップが盗まれたりした場合にも対処できるようにしておくことは忘れずに。

追記

あと、curriculum vitae(CV)も準備しておくとよい。

*1:なお、在学証明書は九大の場合、生年月日もプリントしてくれる。

日記は引っ越し

ローザンヌ滞在記に限っては、下記のブログに引っ越しました。Life is beautifulは、科学用にします(たぶん)

Lac Lemanで 追いかけて

自然主義の誤謬

自然(natural world)を観察すると、様々なものの在り方、すなわち現象が人々の頭にインプットされます。しかしそれらは、「そうなるべきだった」かどうかという必然性を教えてはくれません。

自然主義の誤謬というのは、「自然ではAはBなのだから、人もCであるべきだ」などといった主張のことを指します。

たとえば。

『【正論】長谷川三千子氏 年頭にあたり 「あたり前」を以て人口減を制す』

http://www.iza.ne.jp/kiji/column/news/140106/clm14010603200001-n3

実はこうした「性別役割分担」は、哺乳動物の一員である人間にとって、きわめて自然なものなのです。妊娠、出産、育児は圧倒的に女性の方に負担がかかりますから、生活の糧をかせぐ仕事は男性が主役となるのが合理的です。ことに人間の女性は出産可能期間が限られていますから、その時期の女性を家庭外の仕事にかり出してしまうと、出生率は激減するのが当然です。そして、昭和47年のいわゆる「男女雇用機会均等法」以来、政府、行政は一貫してその方向へと「個人の生き方」に干渉してきたのです。政府も行政も今こそ、その誤りを反省して方向を転ずべきでしょう。それなしには日本は確実にほろぶのです。(埼玉大学名誉教授)

太字で強調した部分は、自然主義的誤謬に陥っています。この論調が認められる場合、「一部の哺乳類では、オスによる子殺しが起こる。それが自然です。なので、男性は子供を殺すべきである」というとんでもない論調が認められてしまうことになるのです。子殺しの要因は色々と考えられていますが、オスが、よその子を殺すことで、その母親を繁殖可能状態たらしめることができる、というのが有力です。

「それは倫理的にまずい」という話になったら、「自然に倫理はありませんよ」と僕は返すでしょう。意地悪かのように思われますが、ジェンダー論という、ヒトの(それこそ自然選択をうけて進化してきた)「文化」の問題から論点をずらすだけの論調なのです。社会問題は、自然ではなくヒトが解決すべき問題です。しかもそのあとで「合理的」などという表現がみられるのが、ちぐはぐ感を引き立てます。

なお余談ですが、当該の箇所は、もう一つの誤りに陥っています。ナイーブな群淘汰です。少なくともオスは交尾回数に比例して適応度が高まります。よってこの長谷川氏の論調は実質的に、自然における一夫一妻の進化は、一夫一妻というペアの利害にもとづいて進化が起こった、という考え方に基いているのです。それは特定の文脈では考えられることなのですが、すくなくともここでは僕はそれを「自然だ」と断言してよい根拠は、全くないと思います。

群淘汰は、簡単な思考実験で、だいたいの場合は誤謬であることが"論証"可能です。一夫一妻の進化をこのように、夫婦の利害に基づいて考えてみましょう。すると、夫は浮気するほうにインセンティブが働きます。つまり、浮気するオスのほうが適応度が高まり、次世代で遺伝子頻度が高まります。一夫一妻を重んずるオスは明らかに不利だからです。つまり、一夫一妻は、夫婦の利害に基づく限りは、個体の利害に敵わず、進化的に安定ではないのです。

…と、いうことは、ここでの長谷川氏の論調を、

  1. 自然主義の誤謬 2.ナイーブな群淘汰の誤謬

にもとづいて、意地悪に解釈すると、

  • 男は子供を殺すべきだし、
  • 浮気もすべきだ

という結論が得られる(可能性がある)ということになってしまいます。もちろん僕の答えは、両方NOです。

自然はそんなに都合よく、社会問題の答えを教えてなどはくれません。

Taylor (1992) 「粘着的な集団ではHelpingは進化しにくい」

viscousな島モデルではHelpingは進化しにくい - Life is Beautiful

前にこのエントリーで、Taylor (1992)の結果について解説しました。

そのときは、相加的なペイオフについて、協力者のいない集団に\( z>0\)という、ちょびっとだけ協力するタイプが侵入できる条件を調べました。

しかしTaylor (1992) 結果は、もっと一般的に理解することができます。

たくさんのパッチ(生息地)あからなる島モデルを考えます。各パッチは、 \( N \) 個体ずつきっちり、親個体を収容できるものとします。親たちは社会的相互作用を持ちます。ここで、自身がその行動に関する表現型 \( z^{\bullet} \) を発現させ、周りの他の個体が平均的に \( z^{0} \) を発現させた時、自身の産仔数は \( f(z^{\bullet},\ z^{0})\)であるとします。その結果、各パッチ内で子供が生まれ、親は死にます。子どもたちは、確率 \( m \)で他のパッチに移住し、残りの \( 1-m \) はパッチにとどまります。この時、集団平均が \( z\) のときに、それよりも少し大きい \( z+\delta \)が進化する条件はいくらでしょうか?

適応度はいつもどおり。 \begin{align} W=(1-m)\frac{f(z^{\bullet},\ z^{0})} {(1-m)f(z^{0\mathrm{R}},\ z^{0\mathrm{R}})+mf(z,z)}+ m\frac{f(z^{\bullet},\ z^{0})} {f(z,z)} \end{align}

ただし

\begin{align} z^{0\mathrm{R}}:=\frac{1}{N}z^{\bullet}+\frac{N-1}{N}z^{0} \end{align}

です。つまり、 他個体(\(N-1\)個体)と自身(\( 1 \) 個体)とを併せた \( N \)個体の平均表現型値です。\( \delta := z^{\bullet} - z\) という集団平均からのズレに関するneighbor-modulated expansionから、

\begin{align} S(z)= \frac {\mathrm{d} W} {\mathrm{d} \delta}= \frac {\partial W} {\partial z^{\bullet}} +F^{\mathrm{R}} \frac {\partial W} {\partial z^{0\mathrm{R}}} +F \frac {\partial W} {\partial z^{0}} \end{align}

ただし \begin{align} F^{\mathrm{R}}=\frac{1}{N}+\frac{N-1}{N}F \end{align} です。また、すべての偏微分係数は、偏微分実行後に \( z \)という在来型の値を代入したものと解釈します。すると、 \( S(z)>0 \)となる条件、すなわち在来型よりも協力行動が盛んなタイプが増えられる条件は

\begin{align} \frac {1} {f(z,z)} \cdot \frac {\partial f(x,y)} {\partial x} + \frac {F} {f(z,z)} \cdot \frac {\partial f(x,y)} {\partial y} -(1-m)^{2} \frac {F^{\mathrm{R}}} {f(z,z)} \cdot ( \frac {\partial f(x,y)} {\partial x} + \frac {\partial f(x,y)} {\partial y} )>0 \end{align} です。 ここで、 \((1-m)^{2}F^{\mathrm{R}}=F\) が成立するので、

\begin{align} \frac{S(z)}{1-F}= \frac {1} {f(z,z)} \cdot \frac {\partial f(x,z)} {\partial x}|_{x=z}>0 \end{align} ですが、これは、「自分が行動を起こすことによって自分の産仔数が増える」という自明な場合にのみ、協力行動は侵入できるということを意味しています。より美しくは、\( x > z\)の進化条件は、

\begin{align} \frac {\partial \log{f(x,z)}} {\partial x}|_{x=z}>0 \end{align}

ということになります。

アクセプトまでの長い道のり

論文出版というのは、書くのも大変なら、投稿してからのプロセスもまた、長く険しい道程です。

2013年の12月21日、単著の論文を投稿しました。ほぼ修論の内容だし、絶大なプログレスが認められるわけでもなかったので、3週間ほどで書き上げ、理論誌に投稿したのです。その経緯を、ここにすべて書きたいと思います。本当はこの事実を文字起こしすることは避けようと思っていました。しかしわけあって、事実を明るみに出すことに対する障害が一切なくなった(以下参照)のです。

ここで1つ説明を。ハンドリングエディター(HE)というのは、査読者-著者間での原稿のやりとりを媒介するエディターのことです。ジャーナルにもよりますが、ジャーナルごとにたくさんの人数が充てられています。実際に原稿を読みつつ、査読者からのコメント、そしてそれに対する著者の返答などを鑑みて、チーフエディターに、論文掲載の可否について実際に提言を行ないます。 そしてチーフエディター(CE)というのは、ボスです。ジャーナルによっては数人しか充てられていませんが、カバーレターを読む、HEからのサジェストを吟味するなど、原稿に関しては中立的/形式的な立場にあると言えます。

12月02日 種生物学会のシンポ企画発表を終えて、福岡に帰る。執筆開始。

12月06日 天草臨海実験所にて、合宿。執筆を続ける。

12月15日 後輩の車に乗り、焼き肉を食べに酒とバラの日々へ。

 車の中でも執筆。ワインを飲み過ぎて、帰りの車の窓から梨汁ブシャー。

12月21日 徹夜。投稿。

12月30日 ジャーナルからメール。

 原稿がHEの手元に。

ーーー年明けてーーー

1月29日 問い合わせ。

 以来パッタリ消息が途絶えた、我が原稿。

 HE「いや、うまくいってるから」"the review process is ongoing".

3月某日 問い合わせる。

 HE「」(メール返事なし)

5月12日 問い合わせる。

 HE「ごめん、もう1人レビュアー探してる。1人は見つかったんだけどねー」

 …は??!!ongoing言うたやん…。

6月26日 問い合わせると

 HE「ごめん、ようやくもう1人見つかったわ。1人目のレビュアーはなかなか好意的なレポート寄越したよ」

 お、おう…ほな少し待つわ…。

7月18日 決定通知。

 HE「おまたせ。なんか、オンライン投稿システム、おかしくない?直接おくるわ」

 なぜか直接メールでMS Wordファイルが到着。メジャーリヴィジョン。

8月15日 エアー再投稿しようとしても投稿できず(おそらく、査読レポートをシステム経由でなくメールで送ってきたせい)。問い合わせる。

 HE「ごめんごめん!システム調節したわ」

8月23日 再投稿!

 …もその後、再び消息を絶つ…

10月19日 問い合わせ。

 HE「」(返事なし)

10月12日 問い合わせ。

 HE「」(返事なし)

 結局、チーフエディター(CE)に問い合わせる。

 CE「本当に、本当に、ごめん。急ぐことを約束する。数日後には必ず…!」

10月29日 問い合わせ。

 HE「いやごめん、俺、仕事おおすぎて無理や思たから、降りてん…」

 は?

 しかも謝罪の1つもなし。ちなみに、HEは知り合い*1

 だからこれまで文字起こしを避けてきたのだが、もう、関係ないなら書いてやろう、ということですわ。。

 結局すぐ、CEに問い合わせ。

 CE「すぐに決定くだすわ」

おそらく、HEの謝罪の1つもなかったことには、彼と僕との関係は実質、終わったのだと思います。海外学会に行った時、とてもよくしてくれた研究者だったので、とてもとても、残念に思います…。

10月31日 CEから連絡。

  CE「やっと読んだわ。査読レポート送るわ。改訂版ある?」

  …2ヶ月前に再投稿しました。しかもその査読レポート、3ヶ月前のでした。どんだけシステム、グダグダやねん。もう再投稿したよ!という旨を、5分で返信。

  その後、アクセプト通知。なんなんや一体…。結局、CEは、一日で処理してくれたらしいです。ありがたや。

11月01日 CEにお礼のメール。その返事:

Dear [Lambtani],

I am happy that this long-standing issue was finally sorted out. Yes, once I had a half a day for looking into this matter, it was easy to make the decision. I don't quite understand why [HE] could not do it in time.

Anyway, good luck with your research.

[CE]

断っておくと、CEさんの対応は、最初から最後まで誠意がありました。そこは間違いありません。お忙しいでしょうに、個人的にも大変誠意のあるお言葉をくださいました。しかしHEの対応は非常にgdgdでしたし、到底、納得のいくものではありません。そしてここまでひどい事態は、僕が知る限りワーストな例です。

いずれにせよ、どうやって交渉すべきなのか、どういった事態が考えられるか、といったことをよく学ぶことができました。円安やし、アクセプト祝いはしばらくおあずけかな…。

*1:日本人ではないが