Life is Beautiful

主に進化生物学の理論のブログです。不定期更新予定。

国際学会で僕が心がけていること

国際的な学会でいかに自身の研究を面白く伝え、顔を覚えてもらえるか、というのは、アメリカやヨーロッパでは特に重視されていることのように思います。それをどのように活かすか。僕の直近の経験談から探ってみたいと思います。

まずは経験談から

とても評判の良い学会(EEID)にラボの皆んなで行くことになっていて、講演登録を済ませたのが、3月の下旬。日本で二つの講演依頼をうけ、アメリカに戻ってきた次の日。なぜか食中毒に倒れてフラフラでした。

そして無事に登録が受理され、めでたく口頭発表できることになったのはいいけど、なんとパラレルセッションがないとのこと…

つまり参加者全員が一斉に会場にやってくる。 ラボのみんなはポスター発表で気楽。

僕一人が口頭発表。

オフィスでの背後の友人に「パラレルセッションがないとか知らんかった!怖い!(It’s scary!)」と言うと

「That’s why I didn’t apply to the talk session ;)」

意訳:「せやから私は口頭発表には応募せんかったんや」

おーーーーーい!

さあ、ナーバスもいいところです。

  1. 聴衆はネイティブ、僕は非ネイティブ。
  2. 聴衆は非理論家、ぼくは理論家。
  3. ぼくは非疫学者、聴衆は疫学者。

ということで、極力は数式を使わず、喋らなくても分かるレベルのビジュアル性で、ただただ聴衆に理解を訴えかけることに。

いわば顔芸

  • 6/17: 準備開始。

  • 6/20, 15h00: ラボのみんなのまえで練習。そこで一時間半ほど、みっちりコメントを貰う。そこでの評判は、なかなかでした。

  • 6/23, 16h00: ボスと1:1で練習の時間を割いてもらい、一時間半ほど練習。良いコメントをもらったので、大幅に変更。

  • 6/24, 10h00: ラボの皆と車でサンタ・バーバラまでドライブ。郵便局に寄り道しつつ、合計六時間。

寝て・食って・寝てるだけ*1でしたけど、Moss Landing Harborの野生のラッコが印象的でした。

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  • 6/24, 18h00: 会場到着。ウェルカムパーティに行ったり、すこし友人と電話したり、すきをみてスライドを改訂。

  • 6/25, 9h00: 学会がオープン。アットホームな雰囲気。ただし聴衆は300人以上いそう。僕はと言うと、練習は合計10回はしたはずやけど、本番までナーバスな状態が続きそう。

  • 6/26, 9h00: 学会公式のハイキング。海鳥の保護区域の外をハイキング。友人と迷子。10kmほど歩いたのち、別の友人夫妻と合流して、昼飯。

  • 6/26, 15h50: 僕の本番。アガりまくり。

しかし、リラックスできるように話しかけてくれた座長や、そのナイスなイントロもあり、あっという間の17分半のトーク。制限時間は質疑応答を含めて20分やから、我ながら完璧に近い時間配分。

かなり凝ったスライドを作ったこともあり、多くの笑をさらった。そのおかげで、終わる頃には肩の力もどんどん抜けていました。

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  • 質疑。日本語ですら苦手やのに。1人目の質問者の質問が、(僕が取り組んだトピックをAとすると)「Aは起こると思う?」というもの。質問者はいわゆるビッグネームの研究者。そこで僕はただひとこと、

“YES”

  • これで会場は大きな笑いに包まれた。友人たちはその後、その質問者の「悪意」についてプリプリしていたが、ぼくの回答もちょっとsnobbishだったので、おあいこ。

  • あとは、友人知人からの質問に答えて終了。鋭い質問だった。

  • 発表後は友人たちが心の底からトークを讃えてくれて、もう完全に僕の脳みそは「はよビール飲みたいモード」。

  • 僕はカナダで働く可能性もあったが、その可能性についてずっと検討して議論してくれていた受け入れ研究者(発表中に質問もしてくれた方)たちとバーへ赴き、そこでおしゃべり。最後に会ったのはローザンヌでのESEBなので、二年ぶりといったところ。

  • というか彼は、僕が発表すると知り、別の学会(@ポートランド)を途中で抜け出して、サンタバーバラに来てくれたらしい…!!!

  • バーには5人ほどで行ったけど、そこで話してた相手が、実は憧れの研究者たち(と途中で判明)。ここぞと、別の研究もしっかりアピールしておいた(寄生者による宿主操作の数理モデル、アリの巣の免疫の数理モデルなどなど)。

  • その後は、バーから懇親会、懇親会からまたバー、そしてバーから海での飲み会へ。海では焚き火を囲んで酒を飲む。その間、何度「I like your/Great/Lovely/Fantastic talk!」と言われたか、文字通り分からない。*2

  • 極めつけは、学会に来れなかったボスからのメール:

I don’t have to ask how your talk went. I’ve heard great things from lots of my friends and senior colleagues! Well done.

  • このうえなく、救われた思いに浸る。

  • 来週は学会で少しおしゃべりした研究者と、本格的にSkypeでチャットをすることに(lovely chatting with youって、素敵な表現のメールをもらった)。

何が大事やねん?

このままやと僕のただの自慢話、で終わりやけど、国際学会で強く心がけていることを簡単にまとめておきます。

発表前:練習・練習・練習。
  • 練習する。

  • そのうえでここは意見が割れるだろうけど、原稿は作らない。

  • 作ってもいいけど、読まない*3

  • というか、覚えるまでやるから、原稿は結局無駄になる。*4

  • 外国語の場合、せめてアクセントくらいは事前に確認しておく。大事なのは美しい発音ではない。アクセントがほぼすべて。ちなみに僕の英語はネイティブ的には、ややフレンチ・アクセントらしい(矯正中)。*5

発表前:発表を広告する
  • 当たり前だけど、自己紹介して、笑顔で、どこにいて、何をしていて、というのをお互いに交換しあう。

  • 「発表するの?」といった質問をして、お互いに口約束でもしておく。

発表中:聴衆のことだけ見つめる
  • これは普段の日常会話でもそう。
  • グループで話すなら全員の顔をくまなく眺め、見渡しながら話す。
  • スクリーンのほうしか見ないのは練習不足。
  • ぼくは、ポインタを使わないと理解してもらえないスライドは避けるようにしている。
発表中:ジョークに挑戦する
  • 趣味問題だけど、笑ってくれたほうが楽しいから。
  • すべることができるのは、すべる勇気がある者だけである。

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  • 注:In vino veritas = 「ワインの中に真実がある」…つまりお酒を飲めば本音が出てくる。ここでは、「発表中には、完全に正確な言葉遣いをしてはいないけど…」という語り口からRead 1909を引用し、最後に「懇親会(Banquet)で話そう」と表示。ここでの笑いが一番大きかった。
発表後:質問者に詰問する
  • 質問してくれた人も、完全に理解したうえで質問できるわけではない。
  • むしろ、どこまで理解や同意が得られているかを知るために、発表後にはこちらから話しかけると有効。
  • その後、「あとでメールするよ!」「原稿にコメントをもらってもいいですか?」などで、交流を深める。
発表後:懇親する
  • まあ硬い話も半分くらいにして、雑談するのも楽しい。
  • 多様な背景をもつ人たちが集まってきているはずだから、色々な話が聞ける。
  • お酒が飲めなくても大丈夫。
帰宅後:メールする
  • 僕は学会後は何人にメールを送ったか分からない。
  • 相手とどういう文脈で何を話したかをクリアにしながらメールすると、より仲良くなれる(し自分の脳みそに刻まれる)。
  • 共同研究の可能性を探る。
  • 二年前の学会で知り合った研究者(カナダのひと)とメールをして、ポスドクとして働く可能性にまで踏み込んだ(かなりポジティブな答えをもらっていた)。縁がとても大事。

こうしたことをMMEE2015(進化生態学数理モデル学会)、ESEB2015(ヨーロッパ進化学会)、EEID2017(進化生態疫学)でも心がけた。これは発表どころか、学会そのものを楽しむためのキモでもある気がする。

ちなみに、僕は怠け者なので、日本ではここまではしない。既に知人が多いからというのもある。そしてたぶん、そこまでマメでもないのだと思う。後記:すみません修士の頃には、していました

僕は英語も友達付き合いも得意でないけど、まずは友好関係を築きたい。そのための手段なんて、今御時世いくらでもあるのだから、活かさない手はない。マイナススタートなら、他の人のアベレージよりもがんばることで、ゼロに戻してようやく対等になれる。

そして最も大事なのは…

ずっと:笑顔でいること、楽しむこと、楽しむための努力をすること

*1:ラッコではなく、車中の僕の話

*2:なぜならば完全に酔っ払ったからだ

*3:無機質に読みあげるくらいなら、事前に録音したものを流したほうが良いとすら僕は思っている

*4:一部の方はご存知だろうけど、このまさに理由によって、僕は急遽発表を依頼されたりして発表すると、クソのような出来になる。急に引き受けるもんではない。。。

*5:僕は練習中の自分の声を録音しあとでそれを聞くという、地獄のような苦行をすることもある。自分の声というだけで気持ち悪いのに、その英語を聞くともう、「ああもっと頑張らなあかんな」という気持ちになる。ドMである。